会社で業務中に突然上司から呼び出されて、転勤命令が下されて、戸惑う人が多いのも無理はありません。
エンジャパンの実施したユーザーアンケート調査によると、「転勤は退職のきっかけとなる」と少なからず感じる人の割合は全体で64%です。
「1万人が回答!「転勤」に関する意識調査」エンジャパン
つまり、突然の転勤命令に対して容易に応えることができず、会社とトラブルに発展することで退職を考える人は少なからず存在するということが考えられます。
そこで、今回は退職を拒否する際に知っておくべき知識をまとめてご紹介します。
- 転勤を拒否できる条件
- 転勤の際に支給される手当や補助
- 転職のメリット
この記事を読んで、実際に転勤命令を拒否する権利があるのか、そもそも転勤命令を拒否する必要があるのか等を検討する材料にしてください。
転勤は拒否できるのか?
会社から転勤を命じられた際に、従業員がこれを拒否できるかどうかは就業規則への転勤に関する記載によって変わります。
就業規則への記載があれば拒否できない
例えば就業規則に、「業務上の必要性がある場合、転勤を命ずることがある。」といった記載がある場合は転勤を拒否することは基本的には困難です。
転勤を命じられても、労働者が断ることが困難な理由として、日本では人員整理を目的とする整理解雇が認められにくいことが背景にあります。
日本では整理解雇(リストラ)をする場合にも、整理解雇せざるを得ない経営状況であると客観的合理性および社会通念上相当認められうる場合でないと解雇を無効とされます。
また、他にも解雇を回避する努力を行ったか、解雇する人員選定を合理的かつ客観的と認められる方法で行ったか等、複数の条件が認められる必要があります。
企業は簡単に人員整理を目的とした従業員の解雇を行うことができないため、従業員の適正や業務上の必要性を判断したうえで転勤を命じる権利が認められます。
就業規則に従業員の転勤命令権について記載がある場合、転勤があることを了承の上で入社したと判断されます。
このような理由から企業の命じた転勤に対して、就業規則に転勤命令について記載がある場合、従業員が拒否することは困難です。
実際にエンジャパンのユーザーアンケート調査においても、「条件付きで承諾する」と回答した人の割合は全体の50%と高く、転勤命令を完全に拒否することは難しいと感じている人が多いと推測されます。
「1万人が回答!「転勤」に関する意識調査」エンジャパン
転勤を断れるケース
ではいかなる理由であっても転勤を拒否することは難しいのでしょうか?
以下のような場合においては転勤を拒否することが認められます。
就業規則の記載に反する場合
就業規則に転勤命令に関する記載がない場合や職種や勤務地を限定する旨の記載があるケースにおいては、転勤拒否が認められます。
転勤命令が、就業規則の記載内容に反する場合、労働者は転勤があることを承諾の上で入社を決めたとは認められないため当然転勤を拒否する権利はあると考えられるのが通常です。
権利の濫用が認められる場合
権利の濫用とは労働契約での締結で生じた権利を本来の目的とは異なる形で行使することを指します。
転勤に関しては、下記のような事情がない限りは、権利の濫用に当たらないとされています。
- 業務上の必要性がない
- 不当な動機や目的に基づいた転勤命令
- 労働者に到底感受し得ない程度の不利益が生じる場合
- 介護や育児で転勤が困難である場合
それぞれの項目について詳しく確認します。
業務上の必要性がない
企業の経営上、合理的な運営に貢献する理由である場合は業務上の必要性が認められるとされています。
以下のような経営上有意義な転勤には従わざるを得ません。
- 労働能力向上を目的とする場合
- 人材の配置最適化を目的とする場合
- 業務効率向上を目的とする場合
- 勤務意欲向上を目的とする場合
- 業務運営の円滑化を目的とする場合
一方、以下のような場合は業務上の必要性が認められないでしょう。
- 退職勧奨を目的とする場合
- 個人的な感情により転勤を命ずる場合
- 能力不足を理由とする場合
不当な動機や目的に基づいた転勤命令
上述したような自己都合退職に追い込むための嫌がらせを目的とした退職勧奨や個人的な感情による転勤命令には権利の濫用が認められます。
労働者に到底甘受し得ない程度の不利益が生じる場合
例えば、配偶者や子どもと別居状態になる、病気がちの両親と離れるのが不安といった多少の不利益では転勤の拒否が認められうる程度のものとは判断されません。
労働者が転勤することによって、家族が生活に困窮する可能性があるといった深刻な不利益が生じる場合、企業は事情を十分配慮した上で転勤命令を出すかどうかを判断する必要があります。
介護や育児で転勤が困難な場合
転勤を命じられた場合、介護や育児に大きな支障が生じて家族や両親等が日常生活を送ることが困難となるようなケースにおいては権利の濫用が認められることがあります。
(労働者の配置に関する配慮)
第二十六条 事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものを
しようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家
族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育
又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。
引用元:育児休業、介護休業等育児⼜は家族介護を⾏う労働者の福祉に関する法律第26条
従業員が介護や育児を理由として転勤が困難であると主張しているにもかかわらず、企業が労働者から詳細の事情について十分な聞き取りや転勤命令の撤回の検討を行わなかったようなケースでは権利の濫用が認められます。
転勤を拒否する際のリスク
権利の濫用が認められたり、就業規則への転勤命令に関する記載がないような状況下で、実際に転勤を拒否するとどのようなリスクがあるのでしょうか。
ここでは転勤を拒否した際に発生するリスクについてご紹介します。
キャリアアップの機会を失う可能性がある
企業が労働者の成長や勤務意欲向上を目的として転勤を命じるような場合、転勤を断ることで成長の機会を失うことでキャリアアップのチャンスを逃す可能性があります。
退職勧奨される可能性がある
企業は目的をもって転勤命令を出すため、拒否することで会社の方針に従えない従業員とみなされる可能性もゼロではないでしょう。
その結果、いわゆる追い出し部屋と呼ばれるような部署に人事異動命令が出されて、自己都合退職を促されるようなケースも考えられます。
退職勧奨も何度も行われると、退職を強要しているものと判断できるため、慰謝料請求が認められる可能性があります。
このような不当な扱いを受けているような場合は、労働基準監督署や弁護士に相談してみるのも良いでしょう。
転勤の際に出る手当てや補助
エンジャパンの転勤命令に従う条件に関するユーザー調査を見る限り、転勤の際に出る家賃補助や単身赴任手当等の手当があれば転勤しても良いという声も少なくありません。
引用元:「1万人が回答!「転勤」に関する意識調査」エンジャパン
転勤命令が下った際に、会社から支給される手当や補助があるため、転勤を承諾する人も少なくないでしょう。
ここでは転勤の際に支給される手当や補助の種類についてご紹介します。
転勤の際に受け取ることができる可能性がある手当てや補助は以下の通りです。
単身赴任手当て
単身赴任手当ては、自分以外の家族を残して単身で転勤する際にかかる費用負担を軽減するために支給される手当てです。
別名、別居手当てとも言います。
単身で生活する際にはこれまで家族全体で負担していた水道、ガス、光熱代等が別途かかってしまいます。
こういった転勤先で生活を送るにあたって、新たに負担する必要がある費用を軽減するために企業から支給されることがあります。
家賃補助
家賃補助とは会社や自治体が賃貸物件に居住する人を対象に、家賃補助の一部補助することを目的とした補助金です。
会社側に家賃補助を支給する法律上の義務はないため、法定外福利厚生の一環として支給されます。
家賃補助は現金支給となるため、課税対象になります。
転勤時の家賃補助の支給額や条件は会社の社内規定によって異なります。
詳しくは会社の就業規則等で確認しましょう。
赴任手当
赴任手当は会社が労働者の転勤に関する準備のために出す補助金です。
転勤により、引越し予定の家族人数や職位によって支給額が決定するのが一般的です。
利用目的に関しては定められていないため、転勤支度金の利用用途は自由です。
この支度金に関して、労働者が領収書を会社に提出する必要はありません。
帰省旅費手当
転勤先までの旅費としては、宿泊滞在費と日当、交通費の合計を支給する企業が多い傾向にあります。
帰省旅費手当で注意しておくべき点は以下のとおりです。
- 単身赴任者本人の交通費のみ支給される
- 勤務地と自宅間の交通費が支給される
- 実費の金額が支給対象
- 最も安く、合理的な料金である必要がある
- 1ヶ月で4往復以内まで支給
- 領収書の提出が必要
- 特定支出に関する証明を会社に依頼する必要がある
- 交通機関の証明書の提出が必要
単身赴任者本人の交通費のみ支給される
帰省旅費手当は単身赴任者が自身の家族に会うために帰省する際の費用補助を目的として運用されることが一般的です。
そのため、単身赴任者本人の交通費しか支給されないことが通常です。
勤務地と自宅間の交通費が支給される
転勤先に勤務するために居住した家から会社までの交通費は別途支給されているため、定期区間分の交通費に関しては支給対象にはなりません。
実費の金額が支給対象
交通費に何らかの割引が行われて、実際に支払った金額が少なくなった場合も、会社に提出する領収書の金額に基づいて支給金額が決まるため、支払った実費の金額分が支給されます。
最も安く、合理的な料金である必要がある
帰省経路として、最も安く、効率的な経路を選択する必要があります。
例えば、「寄り道して帰りたい。」といったような理由で最短ではない経路を選択することは認められないでしょう。
グリーン車への切り替えなども当然認められます。
1か月で4往復まで支給
帰省旅費は確定申告時に控除の対象となります。
ただし、控除を受ける際の条件の1つとして「1ヶ月で4往復以内であること」が必要です。
会社に領収書の提出が必要
帰省旅費は実費としてかかった費用が支給されるため、会社に領収書の提出をする必要があります。
基本的に会社が確定申告の際、適切な処理を行ってくれる場合がほとんどです。
特定支出に関する証明を会社に依頼する必要がある
特定支出に関する証明の依頼書を会社に提出しましょう。
依頼書に基づいて発行された特定支出に関する証明書は会社が確定申告する際に添付が必要な書類の1つです。
交通機関の証明書の提出が必要
帰省の際に使用した各交通機関の発行する搭乗、乗船、乗車に関する証明書の提出も必要となります。
各交通機関の窓口にて、証明書の発行依頼書を提出して証明書の交付を受けて会社に提出しましょう。
転勤のメリット
転勤に対して、「家族に簡単に会えなくなる。」「地元から離れるのが嫌だ。」といったマイナスのイメージばかりが脳裏をよぎるかもしれませんが、転勤も悪いことばかりではありません。
実際の転勤に関するアンケート調査においても、「人間関係が広がった」「自身の能力が向上した」「業務範囲が広がった」といったメリットがあるという声が多数あるのも事実です。
引用元:「1万人が回答!「転勤」に関する意識調査」エンジャパン
ここでは転勤のメリットについてご紹介します。
新たな経験を積んで成長できる
従業員に成長してもらうために転勤を命じるケースも少なくありません。
例えば、別部門の業務をOJTの一環として覚えさせることで、別部門の業務内容を想定した上で仕事を行うことができるようになり、成果物の質が上がるといったことも考えられます。
普段の業務がマンネリ化してきた際に、新たな業務や環境に身を置くことで、転勤から戻り、普段の業務に対する新たな発見があるケースも少なくありません。
また、当然業務の幅が広がるため、幅広い業務に対応できる人物として全体のマネジメント等の責任ある職位につく可能性も高まるでしょう。
昇進する可能性がある
会社が従業員の昇進を検討した際に、不足している知識や能力を習得してもらうために、転勤を命じるケースもあります。
そのため、転勤先で十分な知見が身について実績が出ていると判断された場合、昇進につながることも少なくないでしょう。
逆に、このような状況で転勤を拒否した場合、会社の用意した貴重な昇進のチャンスを棒に振ることにもなりかねません。
人間関係が広がる
新たな土地に居住する人々や会社の新たな仲間との交流を深めることで、人間関係がさらに広がる可能性があります。
人脈は人生を豊かにする貴重な財産のため、新たに友人や知人ができることは転勤の大きなメリットと言えるでしょう。
新たな土地に会社の補助を活用して住める
自分の行ったことのない土地で住むことに対して、「土地勘がない。」「生活に不便な土地に住むのは嫌だ。」といった懸念があるかもしれません。
しかし、新たな土地に住むことでその土地でしか味わうことのできない新鮮な食材や行ったことのないリフレッシュスポットがあるかもしれません。
また、自然の多い地域であれば、都会の喧騒の中で暮らしていた人にとって自然と触れ合うことでストレス軽減に繋がることも少なくないでしょう。
会社の補助を活用して、普段住めないような土地に住めることも捉えようによってはメリットの1つとなります。
まとめ
転勤を拒否することに関して、拒否できる可能性や転勤の際に支給される手当や転勤のメリット等について解説しました。
転勤を拒否することは、権利の濫用に当たらず、就業規則に記載があるようなケースにおいては困難でしょう。
もし育児や介護などやむを得ない事情がある場合は、一度会社に相談することをお勧めします。